世界とうまくリンクできない。

幸福とは何かと問うてみるに、それはすなわち世界でうまく立ち回ることによって得られる数々の利益であるという結論が算出されたのであるが、果たしてそれをより多く得ようとすればするほどに世界とうまくリンクできなくなっていることに気づかされるのである。
熱中できないFPSをプレイしている時のように、頭部30cm後方にある暗く小さな世界に住んでいる私が両目を通して世界をのぞき見ているような感覚がつきまとう。確かにその方が自分自身をうまくコントロールできるのだし、私はこれまでそれでそれなりにうまくやってきたと思うのであるが、果たしてそれが幸福という初期の目標に合致しているかと問うとそうではないようだと気づく。
私は私をうまく操縦したいわけではなく私は世界をうまく操縦したいわけでもない。私は世界によって与えられる数々の利益を享受したかったのだ。なのに、私が必死で自分を操縦することによって得た世界からの利益は、私の操っている私の口が貪り食うしかなく、その結果は数値や言葉としてしか私自身には届かないのである。
感覚器と脳が乖離しておりうまくリンクが確立できない。
私がこのことを意識し改善せんとすればするほど世界は離れてゆき、かつて数センチ程度であったその差がすでに30cmの暗闇の向こうにしか世界は見えなくなってしまった。臭いや触覚もまた折れそうに細い導線によって私の肉体から魂へと伝達されており幾ばくかの時差を生じている。
私は何を間違ったのだろう。何を失ったのだろう。
そもそも私自身の世界をより広げ世界よりの果実を頬張るるために私は私の肉体を操ることを覚えたはずであるのに、私という存在はこのような狭く暗い肉体に閉じこめられた存在ではなく広く開放されたこの世界に一人存在していたはずであるというのに。